トップページ > 経営と戦略と

経営と戦略と

〜 伊勢丹の経営戦略〜三越との経営統合〜は成功するか 〜

 技術の高度化、投資規模の増大、グローバル化、短くなった製品ライフサイクルなど、経営環境の変化が激しい今日、企業は自社の所有する資源だけでは競争力を維持することが困難になっている。その結果、企業間で相互にパートナーの所有する経営資源を活用しようと、様々な形態の戦略的アライアンスが行われている。

 2008年4月、株式会社三越と株式会社伊勢丹は経営統合し、株式会社三越伊勢丹ホールディングスを設立した。以下、3段階のプロセスで統合を進めることを発表した。

第1段階(2009年度まで)
 今後の事業展開をスムーズにするためのインフラ整備。具体策 システム子会社の統合、両社の業務フローの共通化、生産性を向上するための重複事業や業務の再編統合。そのほか、規模のメリットを活かした施策を推進し、グループとしての統合効果を早期に創出する。

第2段階(2010年度から2011年度)
 マーチャンダイジング機能や情報システム、カード機能の統合を行い、統合効果を業績面で顕在化させる。

第3段階(2013年度まで)
 統合効果を最大化させ、更なる成長への体制を整え、名実ともに真の業界のリーディングカンパニーをめざす。(HPより抜粋)

 現在第2段階に入ったところであり、三越と伊勢丹の統合が成功であったか否かを論じるのはあまりにも早急でナンセンスである。
ここでは、且O越伊勢丹ホールディングスの2009年3月期の決算状況をもとに、伊勢丹側にとっての現状と今後どのような戦略が有効なのか考えてみたい。

<経営統合は伊勢丹にとって純効果を最大化しているだろうか>
 (株)三越伊勢丹ホールディングスの設立は、同じ百貨店業界の老舗ライバル同士の統合であり、規模の経済の実現を可能にする水平統合である。三越・伊勢丹各社に存在する物流・人材子会社等を一本化することにより効率化・コスト削減を図ることが可能となり、生産性向上・売上高拡大が期待できる。

ワースト順位

1位

2位

3位

4位

5位

営業利益率

三越

松坂屋

高島屋

伊勢丹

大丸

有利子負債率

三越

松坂屋

大丸

高島屋

伊勢丹

販管費率

高島屋

三越

伊勢丹

大丸

松坂屋

従業員1人当たり売上高

三越

松坂屋

伊勢丹

高島屋

大丸

(週刊ダイヤモンド 2007/9/22記事より作成)

 大丸・松坂屋の統合等、百貨店業界は統合により規模の経済追及を目指す動きがある。しかし、統合前の三越の経営状況は、上記表からもわかるように魅力ある企業とはお世辞にも言えない状況だった。伊勢丹にとって三越と統合することのメリットは何だったのであろうか。

三越の所有するケイパビリティの主なものとして、
 1.三越は中高年の富裕層に高く評価されている。
 2.三越は海外・地方都市を網羅する店舗数を誇る。
 3.三越は銀座・日本橋といった消費の中心地に店舗を所有している。 などが考えられる。

伊勢丹は、三越と統合することにより、三越の所有するケイパビリティを共有することになるため、
 1.顧客ターゲットが若い層中心である伊勢丹にとって、三越の顧客ターゲットである中高年の富裕層を取り込むことが可能となり、
   顧客層の拡大・売上の拡大を期待できる。
 2.三越・伊勢丹統合により店舗数が増加するため売上が拡大する。
 3.銀座・日本橋といった好立地の魅力的な店舗をグループとして所有できる。

 つまり、伊勢丹側の統合メリットは、@三越のケイパビリティの共有により生まれる純効果とA物流や人材・システムの統合・一本化によるコスト削減により生まれる純効果を期待したのではないだろうか。

 しかし、且O越伊勢丹ホールディングス設立後、最初の決算である2009年3月期の売上高は1兆4,266億円となったが、
売上高対営業利益率は1.37であった。

<ホールディングス設立前 伊勢丹の状況> (単位100万円)

 

2005年

2006年

2007年

2008年

売上高

628,996

760,038

781,798

785,839

営業利益率

3.05%

3.96%

4.13%

4.25%


 伊勢丹は統合まで、営業利益率は業界第2位であり、売上高対営業利益率は4%前後の高水準を維持してきた。統合により、売上高は6,400億円増加し、一兆円規模となったものの、売上高対営業利益率は2.88%も低下した。当期は、世界金融恐慌の影響が百貨店業界にも多大な損失を及ぼしたことは事実である。
 しかし、高島屋が被った世界金融恐慌の影響は、下表のとおり、売上は683億円の減少、営業利益率1.11%の低下にとどまっていることを考えると、伊勢丹にとって、世界金融恐慌の影響だけではなく、営業効率の悪い三越と統合したことにより営業成績が悪化してしまったと考えることができる。

<高島屋の状況>  (単位100万円)

 

2008年

2009年

売上高

994,585

926,281

営業利益率

3.79%

2.68%


 下記分析グラフはSPLENDID21によるものである。ホールディングス企業力総合評価は2008年までは活ノ勢丹の数値を分析してある。且O越は経営統合までの過去5年間の分析グラフである。このグラフからも且O越を引き受けたことが且O越伊勢丹ホールディングスの企業力を引き下げた原因の1つであることが見えてくる。




 上記の結果より、第2段階に入った現在、伊勢丹は三越との水平統合によって、純効果は得られていないし、むしろ伊勢丹従業員・投資家といったステークホルダーにはマイナスの統合となっていると考える。

 純効果を最大化できない理由を考えてみる。且O越伊勢丹ホールディングスは、合併の形を取らず、緩やかな統合を選び、持株会社にすることにより、三越・伊勢丹それぞれに自由度を残している。両社が江戸時代から続く老舗同士の統合であり、組織文化の統一が難しいことを鑑みれば、持株会社化は賢明な選択と言えよう。しかし、ホールディングスのトップが時代の変化のスピードや危機的状況の回避を考えた戦略を遂行しようとする場合には、統合の形式が緩やかであるがために、トップダウンの命令遂行が行われずらいということはないだろうか。伊勢丹が純効果を得られないのは、水平統合の形として持株会社を選択したことにも問題があるのかもしれない。

 伊勢丹が経営統合により純効果を最大化するにはどうしたらよいか、稚拙ではあるが、私なりに考えてみた。

【ロックインされた改めるべき慣性からの脱却】
 古い組織風土、継続的な営業効率の悪さに甘んじ、改めるべき慣性にロックインされている三越サイドの意識改革を速やかに行う方策を打ち出し実行する必要はないだろうか。そして、三越伊勢丹ホールディングス全体に、伊勢丹のケイパビリティであり、競争優位の源泉であるMD力や情報システムを速やかに浸透させる必要があるのではないだろうか。

【水平統合推進による主導権の強化】
 伊勢丹側の持ち株比率を高めることで、伊勢丹側の支配力を増し、水平統合をもっと進めることも、組織を効果的に機能させる上で有効なのではないだろうか。 一方で、以下のリスクに留意する必要があると考えられる。

【ホールドアップのリスク】
 緩やかな統合の形式であれば、経営統合を解消することは可能かもしれない。しかし、模倣が難しく競争優位の源泉であるMD力と情報システムを提供してしまった伊勢丹こそ、この統合を解消するわけにはいかないことが見えてくる。三越との統合により自社のケイパビリティであるノウハウの開示をしてしまったために、引き返すことのできない投資をしてしまっていることになる。経営統合の解消は伊勢丹を、「ホールドアップ」状態に陥らせる可能性があり、とてもリスクがあることも見えてくる。

 今後、(株)三越伊勢丹ホールディングスとしての伊勢丹はこの経営統合により純効果を最大化するためにどのような経営戦略をとっていくのだろうか。とても興味深いところである。